サハヤ、と告げられた名前に、沈黙が落ちる。
「……なにか、おかしいかな」
戸惑った気配で尋ねる青年に向けられたのは、胡乱なものを見る風な、複数の視線だ。
「おかしい、と言うか……」
「いや、おかしいね。その名前をそんなサラッと言えるなんて、どうかしてるんじゃないかと思われても文句は言えないよ?」
「うん?」
「…………」
いまひとつ状況が呑み込めていない様子の青年に、今度は複数のため息がこぼされた。
「サハヤ、ってのはさ。……『塔』を……現代魔導の礎を築いた、それこそ伝説と言ってもいい使い手の名前なんだけど」
「まあ、あやかって名付ける例もないではないが……」
普通、知らないはずはない名前で。
……普通、平然と名乗れる名前でも、ない。
「お前、何者だ?」
UP:2022-05-29