古い、旧い、はるかな昔、この世界の中心には楽園があったという。四季の恵みが満ちて巡る、永遠の庭が。
「そうして庭の神秘に支えられ、世界は常春であったとも」
けれど、その幸福は脆くも滅んだ。
炎が春を焼き、夏を生んだのだと言われている。
「そう。私たちは炎の末裔」
――原初の魔と伝えられる存在の、その離散した羽の欠片だ。
吟うように告げて、笑い、魔の名を冠する『羽』の頂点が目を細めた。
さあ、当代の魔王を前に、それでもお前たちはまだ立つのかと。
***
あまねく満ちていた春が焼かれて、悲嘆の氷が世界を覆った。
春の骸からは秋が生まれ、残りの時を冬が満たしたのだと言われている。
「……けれど、伝承は歪められた」
はじまりの悲劇は数多の恐れに糊塗されて、人の子の罪と共に忘れ去られたのだ。
「私たちは氷雪の裔、はじまりの記憶をかすかに繋ぐもの」
――枯れた世界樹、その失われた葉の欠片。
囁くように告げて、笑い、古の名を冠する『葉』の頂点は目を細めた。
さあ、古代よりの系譜を前に、お前たちはどんな真実を望むのかと。
UP:2022-05-29