1.綺麗に笑う、 そう思うのは私から覗く貴方の存在が綺麗だから
あなたは、 きれいに、 笑う
***
何も、飛び抜けて見目が優れていた、という事もないと思うのだ。
確かに、覚えのある雑多な顔と比べてみれば、そう悪い造作ではなかったし、美しい、と言う者の気も知れないではなかったが、その評は飽く迄も“この世”のみを見てきた上。
後にしてきた彼の世にあって、讃える言の葉すら霞むが如きを見知る身としては、到底その評には頷けない。
けれど。
ただ、綺麗だったと、思い出す。
夜を待つ茜の下、まろぶようにして駆けてゆくあまりに幼い背を、目を細めて見守るその柔らかさ。
あるいは、ゆるゆると流れる水面にたゆたう、桜花の雪へ向けて見送るその穏やかさ。
そしてまた、呼び声にいらえて歩みを止め、おもむろに振り返って見遣った、その鮮やかさ。
交わった視線に、驚くほど通る響きで名を紡ぐ。
瞬きの間の気まぐれに、つと差し出して見せた手を押し戴く。
……かけがえの無いものを、扱うように。
それでいて無造作に、無防備に。
『あなたが綺麗だから。そして、そうして笑うから。』
そっと落とすように告げた理由と、ふっと零すように返す理由。
『わたしが笑うのは、あなたが綺麗だから。』
だから、笑う。それ故に、笑む。
見目にではなく、その魂に。
綺麗に、笑う。
そう思うのは、わたしから覗くあなたの存在が綺麗だから。
あなたは、綺麗に笑う。