gottaNi ver 1.1


「誕生日だったからさ、何か好きなもん言えって話をしたんだよ」
……という話題から始まる、科学部部長・加納流治氏の語る『中矢和実嬢について』。

「誕生日だったからさ、何か好きなもん言えって話をしたんだよ」

 すると彼女は、一瞬きょとんと目を見張って、それからえらく真剣に悩み始めた。口元に手を当てて、むーとかあーとかうーとか言いながら、うつむいたり上向いたり右を向いたり左を見たり。
 5分くらい悩み続けた時だろうか、不意に何かを思いついた様子でぱっと顔を上げ、期待に満ちた目と嬉しそうな笑顔でもって言い放ったのだ。
「あのねっ、あのね、とろろそばに挑戦したいのー!」
 何と言うか、虚を突かれた。
 いや、はっきり言おう……一拍置いてからようやく言っている事を理解して、そして呆気に取られた。
 それか。それでいいのか。
 心の底からそう思った。が、満面の笑みを浮かべた彼女を見るに、どうやら大真面目らしいと悟り、俺はとりあえず蕎麦屋を探す事にする。
 その間にも、横に並んだ相手は楽しそう且つ嬉しそうに、とろろと小さく連呼していた。
 昼時の三十分ほど前に、何の変哲もない立ち食い系蕎麦屋の机に到着する。その頃には、もう突っ込みを入れる事すら悪いんじゃないかと思えるような姿の彼女に、完敗した気になっていた。
 注文して数分後、念願のとろろ蕎麦が運ばれてくる。
 (無駄に)厳粛な顔で(蕎麦と向き合った)彼女はゆっくりと一口目に手をつけた。
 (意味があるのか問い掛けたくなる程に)真剣な表情で食を進め、無事に(いや、有事になろうはずもないのだが)それを飲み込むと、(眉間にしわが見えそうな勢いで)何とも言えない面持ちをして感想を教えてくれる。
「……とろろとそばの味がします。」
 そりゃあそうだろう。何せ、今食ってるそれはとろろ蕎麦なんだから。
 とろろと蕎麦の味がしないなら、一体その「とろろ蕎麦」は何なんだ。
 (半ば思考を放棄した頭で)そんな事を考えつつ、(とりあえず)俺は(無難に)相槌を打っておいた。
「……そうか?」
「ん。とろろそばだ。」
「そーか。のびないうちに食べた方が良いんじゃないか?」
「ん。そうだね」
 そして、先に食べ終わってしまった俺は、(美味いのか不味いのか判然としない様子で)黙々と蕎麦を消化する彼女を待ち、会計を済ませて店を出る。
 だが、やたらどうも彼女の顔が沈んでいるように感じられ、気になって仕方がない。
 何せ、あれだけ派手に(意表を突き過ぎの感もあったが)申し出て、食べてみるのを楽しみにしていたのだ。
「思ったよりも不味かったか? とろろ蕎麦」
 不思議に思い、道を歩きながら尋ねてみた。
 すると、表情は相変わらずで、しかしはっきりと首を横に振る。
「不味かったわけじゃないのか」
 確認のつもりで再度聞くと、こくりと頷いてきぱりと言い放たれた。
「とろろの味だった」
「……美味かったのか?」
「とろろ。」
「…………そうか」
「ん。とろろそばでした。」
 妙に力強く断言され、俺はそれ以上の追究をやめる事にする。
 次に聞かされた言葉を考えるに、多分その判断は正しかったのだろう、きっと。何しろ、彼女は大真面目なツラのままで、到底本気だとは思えない決意を明らかにしてくれたのだから。
 曰く、
「次はかき揚げそば。またはカレーうどんなの」
 ……以来。
「ヤツは真面目に両方食った。その後はワカメうどんに手を出し、結局ざる蕎麦に落ち着いて今に至る」
 できる限り事実に忠実、且つ淡々と話してやると、こめかみに指を当てながらの疑問が返ってきた。
「……天然?」
「多分、その後ろに記念物が付くだろうがな」
「……お前の好みが天然系だとは知らなかったよ」
「と言うか、基準の意味がなくなるレベルの大ボケに、判断基準を見失わされた」
「んなの自信満々に言い切れる話じゃないだろ……」
「言い切りでもせんと納得せんだろうがお前らは」
「……まぁ、そうだけどよ」


UP:2018-11-28
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