絡繰屋(からくりや)の朝は早い。
日が昇る前から起き出して、身近なところでは国内特区、遠ければ遥か国外の紛争地帯、時差も何のそのでネットを巡回し、隙あらば流出したあれやそれを格安で買い漁り、ときどき真面目に技術資料を探し、気付けば真夜中は夜明けになり、夜明けは真昼になっていたりする。
今日も今日とて保証期限切れで放出された弾薬を買い叩き、満足した時にはワイドショーの時間になっていた。
「……いつまで値切り交渉をするつもりでス?」
独特の抑揚とやる気のない口調は、絡繰屋が『遺跡』でうっかり拾っってしまった、自律人形のもの。
閟誕(ひたん)と名乗ったそれの、呆れ果てた感満載の呼びかけに、絡繰屋はのんびりと応じる。
「今おわったー。いやー、いい買い物したね」
「はァ、左様でスか。なんかもうそろそろ倉庫が限界でスけども」
「あ、大丈夫、大丈夫、今度のは弾がちょっと増えるだけだから」
「……はァ、さいですか」
一体ナニと戦おうとしてるンですか、貴方、とか呟く閟誕の言葉はスルーして、彼は時刻を確認した。
「あれ、もうこんな時間。ねぇ閟誕、昼食とか食べる?」
「予定の話ですか希望の話ですか」
「両方ー」
「はァ。予定も希望も別段これといってありませンが。作りまスか?」
「んー? ないなら別にいいかな……処理しないとまずい食料とかあったっけ」
「そうでスねぇ……貴方がこの間うっかり箱買いして干物にされた肉ならダダ余ってますが」
絡繰屋の仕入れは常に大味である。あと、食料はとりあえず干しとけばいいと思っている。
「あ、じゃあそれでいいや。えーと、どこ仕舞ったんだっけ」
「すぐに出せる分は台所でス」
「了解ー」
張り付いていた端末の前から離れ、今度は干し肉を漁る絡繰屋。目的のブツを見つけると、とりあえずそのまま齧りついた。
「……うん、凄く肉の味しかしない」
「そらそうでしょうよ」
「しまった。香辛料に漬けといた方が良かったかなー……まぁ食べられるし、いいか」
「いいンですか」
「いけないことは無いから、いいんじゃない?」
「……左様でスか」
ちょっとだけ何かを諦めたような目をして、閟誕が曖昧に応答する。ちなみに後日、何故か香籠(かごめ)に話がいって物凄く可哀想な眼差しと共に説教された。
もう何枚か肉を取り出すと、彼は伸びをひとつして、また端末へと足を戻す。
「じゃあ、私はトレース頼まれてる件ちょっと追いかけたら、修繕のほう戻って適当に寝るから。閟誕も眠かったら適当に寝ちゃっといて」
「了承しました、適当に店番をしておきまス」
「うん、よろしくー」
絡繰屋の朝は早い。夜は遅い。
そして、営業時間であるはずの昼はというと、割と適当なのであった。