gottaNi ver 1.1


<お題>
ポルックスの祝福をうけた旅人。紫水晶の角を持つ。別れの言葉を告げるため、虹の根本を求めて旅をする。トルコ石に縁の深い旅人を探している。

***
「お別れを言いに行こうと、思って」
 旅人はそう笑って天を見据えた。己の享けた祝福の星、ポルックスの先へと、射るように、探るように、呼びかけるように、視線を投げて。

 紫水晶の角を持った、今夜の旅人は、別れの言葉を告げる為に旅を始めた。
「古い、旧い付き合い。気まぐれなウワバミで、うちの酒に目がなくて、ノブドウをよく見つけてきて、それから……」
 手土産にと封を切られた瓶から、思い出話に合わせて葡萄酒が流れ出る。虹の際(きわ)によく似た紫が硝子の中で揺れ、煌いた。懐かしげにその色を眺めながら、旅人は自らの探し物について語ってゆく。

 水晶の一種、アメジスト。乙女に注がれた葡萄酒に起源を持つ、とも伝わる石を持って生まれる、旅人たちの一族は、酒造りを得手として暮らしてきた。
 ある時、酒を気に入ったのか、ふらりと現れて通ってくるようになったのが、件の蟒蛇(うわばみ)だったという。
「……そう。そいつにね、一言でいいから伝えてこないと、って。だから私は旅に出た。いつ、どの虹をつかまえれば良いのかも、分かりはしないのだけど」
 見通しの立たない現状に、幾許かの自嘲を溶かした笑みで言葉を締めると、角を軽く指先で掻く――気恥ずかしさを誤魔化す癖だろうか。
 うねり伸びた蔦、あるいは蛇を思わせる結晶の連なりが、灯火を受けて葡萄酒によく似た揺らめきを浮かべた。

 祝福は、航海の守り手たる、双子星の片割れから。
 船が、いつか出会う陸地を夢見て、星明かりを頼りに海原を往くように。旅人は、いつか辿り着く再会の時を夢見て、星の下を進んできた。
「トルコ石の旅人、シウコアトルの系譜なら、いい呪文のひとつでも伝えているかと思う。虹を追いながら探してみているところ。蛇紋石たちは縄張りがややこしいし、虹……イリス持ちも狙って探すのは難しいから」

 求めている存在の遠さに、ため息を吐き――しかし、紡ぐ声音に諦めの気配は露ほどもない。目もまた強く、挑むように広がる星の海をのぞむ。
 いまだ見えぬ、歩みの果て――探し求める虹の根元に辿り着いた時、旅路は、その言葉と共に終わるのだろう。


UP:2018-06-28
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